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63億ドルはどこへ消えたのか:Binance不正流出事件の1週間追跡

63億ドルはどこへ消えたのか:Binance不正流出事件の1週間追跡

画像: xAI Grok生成
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Binanceの不正流出から1週間。インシデントレポートで5か月にわたる潜伏の経緯が明らかになり、オンチェーン分析で資金の行方もほぼ見えてきました。約44%は凍結され、最大の2つの塊であるBTCとETHは動かないまま、残りの資産は高度に自動化されたパイプラインで細かく分散され、ビットコインに換えられています。本記事では11月6日時点の公開情報を整理し、事実と推測を区別したうえで、セキュリティチームへの教訓をまとめます。

公開日:2026年11月7日 本記事は『63億ドルの教訓:Binance不正流出事件の検証と、AIエージェント時代の取引プラットフォームのセキュリティ』(10月31日)の続報です。資金の流れに関するデータは主に、Ellipticによる11月6日08:45(UTC)時点の更新に基づいており、今後変わる可能性があります。本記事は技術とセキュリティに関する考察であり、投資助言ではありません。


まず結論から

  • 資金はどこにあるのか:Ellipticの集計では、Binanceから盗まれたのは約64.3億ドルです。そのうち約28.5億ドル(44%)は凍結または差し止められ、約31.1億ドルは今も盗難に関連するアドレスにとどまっています。主にETHとBTCです。実際に現金化された額について、Ellipticは「ごくわずか」と見ています。
  • 最大の2つの塊は動いていない:18,270 BTCは盗難当日に19のアドレスに分けられ、その後一度も動いていません。約13.3億ドル相当のETHのうち、動いたのは約300万ドルだけです。
  • 動いているのは「小型銘柄」:TRX、SOL、XRPはまずTronなどのチェーン上で細かく分散され、その後クロスチェーンブリッジとTHORChainを経てビットコインに換えられています。11月6日時点で、累計約1,650 BTC(約1.24億ドル)に換えられました。
  • 資金洗浄は自動化されたパイプライン:2万を超えるウォレット、16のチェーン、少なくとも36のサービス、少なくとも6.5万件のトランザクションが使われ、平均30秒ごとに新しいウォレットが現れています。Ellipticの判断は、明らかに自動化されているものの、AIエージェントが意思決定をしている証拠はない、というものです。
  • インシデントレポートが侵入の経緯を書き換えた:攻撃者は約5か月潜伏していました。入口は改ざんされた開発ツールと偽の採用面接で、ラテラルムーブメント(横展開)の段階では、Binanceの社内AIツールも利用されていました。
  • 「中国の資金洗浄ネットワーク」の証拠は今のところ少ない:Chainalysisが追跡できたのは、中国の資金洗浄組織に流れた数十万ドルです。約10億ドルが「資金洗浄のルートを流れている」ことは、すでに中国の資金洗浄ネットワークを通じて現金化されたことを意味しません。
  • 凍結率は過去を大きく上回る:Bybitの事件で凍結できたのは約3%でしたが、今回は約44%です。鍵になったのは、盗まれた資産の約54%がステーブルコインだったことです。

前回記事に関する更新:前回の記事では「現時点で、今回の攻撃にAIが使われたことを示す公開された証拠はありません」と書きました。11月3日のインシデントレポートによると、攻撃者はラテラルムーブメントの段階でBinanceの社内AIツールを利用していました。具体的な方法はレポートでは明かされていません。本記事の内容を優先してください。


1. 1週間のタイムライン

以下の時刻はすべてUTCです。北京時間は+8時間、日本時間は+9時間です。

時刻(UTC)出来事
10月29日 20:05〜23:56Binanceのホットウォレットから資産が流出
10月30日 00:10Binanceが新たな認可に署名し、乗っ取られたウォレットのEIP-7702委任先をゼロアドレスに変更して、悪意ある委任を解除
10月30日 02:19Tron上の配布用ウォレットが6.846億TRXの送出を開始。最終的に約7,700のアドレスに分散
10月31日FBIが攻撃を北朝鮮のハッカー集団TraderTraitorによるものと発表。関連アドレスを公表し、取引所、DeFiサービス、THORChainのノード運営者に関連取引の遮断を呼びかけ
10月31日 11:34THORChainが、イーサリアムのブロック再編成で露見した返金の不具合を受けて、大半のチェーンでのスワップを停止
11月1日Binanceが段階的に出金を再開。ビットコインなどの資産がCoinJoinによるミキシングに入り始める
11月2日盗まれた2.33億XRPが6つのアドレスに移される。北朝鮮側は関与を否定
11月3日Binanceがインシデントレポートを公表:約28.5億ドルが凍結または差し止め、影響を受けた資産の98%を補填済み
11月3日深夜THORChainがスワップを再開し、それに伴って資金洗浄も再開
11月5日Chainalysisが一部資金の中国の資金洗浄ネットワークへの流入を指摘。Circleは約11億ドルのUSDCを凍結したと発表
11月6日Ellipticの更新:約31.1億ドルが盗難関連アドレスに残存。約1,650 BTCは他の盗難資金から換えられたもの

2. インシデントレポート:5か月にわたる潜伏

11月3日、Binanceは最初のインシデントレポートを公表しました。冒頭の一文は「こんなことは起きるべきではなかった」です。レポートは、攻撃者がどのようにして一歩ずつウォレットの署名システムへ近づいていったのかを、時系列で再現しています。

(1)6月:改ざんされた開発ツール

ウォレットチームのあるエンジニアが、人気のAIコーディングツールを検索していたところ、改ざんされたHomebrewのインストールパッケージを入れてしまいました。The Vergeの報道によると、このパッケージは悪意あるGoogle広告を通じて広まったとみられます。

Binanceのセキュリティチームは問題に気づき、彼のPCを交換し、認証情報をローテーションしました。しかし攻撃者はすでに、彼の身元と、周りでどの同僚が働いているかを把握していました。

(2)9月:偽の採用面接

別のエンジニアは、求人プラットフォーム上で「プロジェクトディレクター」を名乗る人物から連絡を受けました。面接は2回あり、まず偽の「人事担当者」とのビデオ通話、次に実在しない会社の「CEO」との面接でした。最後に、プログラミング課題を業務用PCにダウンロードするよう求められました。

この課題にはマルウェアが仕込まれており、正規の開発ツールのコンポーネントを悪意あるコピーに置き換えました。Binanceはレポートで「この0-dayマルウェアは、当時エンドポイントセキュリティツールで検知されなかった」と書いています。

(3)10月20日:社内AIツールを使った横展開

攻撃者は、この感染したPCとBinanceの社内AIツールを使って、さらに2人のウォレットエンジニアのPCを掌握しました。このAIツールが具体的にどう悪用されたのかは、レポートでは説明されていません。

1人目のエンジニアのPC上で、攻撃者はコンテナのデプロイ権限を持つトークンを見つけました。

(4)10月29日:実行

  • 17:15〜19:56:攻撃者は3人目のエンジニアのPCにログインし、1人目のエンジニアから盗んだ認証情報でコンテナをデプロイしました。悪意あるスクリプトを実行して、Binance社内のウォレット署名サービスに入り込みました。
  • 20:05以降:5つのXRPホットウォレットから、攻撃者に2.3346億XRPが送金されました。その後、Solana、Optimism、ビットコイン、イーサリアムが続きました。

(5)レポートが認めた2つの重要な点

  • 出金の停止だけでは、すべての不正な資産移転を止められなかった。 その夜に出金を停止した後も、送金は続きました。
  • MPCウォレットには「すぐに無効化できる」秘密鍵がない。 乗っ取られたホットウォレットはMPC(マルチパーティ計算)で署名しており、悪意ある認可をすぐに取り消せる単一の秘密鍵がありませんでした。Binanceは取り消し用の手順を急きょ構築するしかなく、委任を解除できたのは10月30日00:10、最初の流出から約4時間後でした。

(6)再発防止策

  • 影響を受けたウォレットシステムを新しい環境で再構築する
  • 社内AIツールとそのアクセス制御を再構築する
  • 影響を受けたエンジニアのデバイスを交換し、認証情報とトークンを失効させる。全従業員のデバイスをスキャンする
  • ウォレットサービスのリスク管理を強化する
  • 独立したセキュリティ企業を起用し、ブロックチェーンAIセキュリティ研究基金を設立し、AI脅威検知への投資を拡大する

共同CEOのRichard Tengは、これらの取り組みを独立した専門家が検証すると述べています。Binanceはまた、今年に入って北朝鮮との関連が疑われる脅威を57件阻止したとしています。

攻撃チェーンのどこにAIが現れたのか

レポートとオンチェーン分析を合わせて見ると、この事件でAIが登場したのは3か所です。

  1. おとり:1人目のエンジニアは、AIコーディングツールを検索している最中に被害に遭いました。
  2. 踏み台:攻撃者はBinanceの社内AIツールを使って、さらに2台のエンジニアのPCを掌握しました。
  3. 資金洗浄:資金洗浄は高度に自動化されていますが、Ellipticは「AIエージェントが意思決定をしている証拠は何も見ていない」としています。

3. 63億ドルは今どこにあるのか

なぜ各社の数字が違うのか

Binanceの公式推計は約63億ドル、TRM Labsは約63.6億ドル、Chainalysisは約64億ドル、Ellipticは約64.3億ドルです。差は主に集計の範囲と評価時点の違いによるものです。以下の資金の流れの分析では、Ellipticの数字に統一します。

全体像

11月6日時点(Elliptic):

  • 凍結または差し止め:約28.5億ドル、44%。主にUSDTとUSDCです。
  • 盗難関連アドレスに残存:約31.1億ドル。主にETHとBTCです。Ellipticは、この部分は「北朝鮮の管理下にある可能性が非常に高い」と見ています。
  • 資金洗浄の途中、または追跡対象のアドレスから離れたもの:上の2つを合わせると約59.6億ドルで、64.3億ドルとの間に約4.7億ドルの差があります。これはEllipticの数字から私たちが推算したもので、Ellipticが直接示した数字ではありません。

また、Binanceが公表した凍結額は、10月30日の約30億ドルから、11月3日には約28.5億ドルに変わりました。Binanceはこの差について説明していません。

資産別に見る

資産11月6日時点の状況(Elliptic)
BTC18,270 BTCは盗難当日に19のアドレスに分けられ、その後は動いていない(盗難時の価格で約15億ドル)
ETH約13.3億ドルのうち動いたのは約300万ドルのみ。約6.83万ETHが約830の小さなアドレスに分散。上位9アドレスがETH全体の89%を占め、10月30日以降動いていない
TRX約2.2億ドルがTron経由ですでに洗浄され、残りは約100万ドル。少なくとも1.47億ドルがTronからクロスチェーンで移された
SOL全額(約8,700万ドル)がスワップ、クロスチェーン移転、またはミキシング済み
XRP2.33億XRPが11月2日に6つのアドレスへ。11月6日までに約4,200万XRP(約5,000万ドル)が移され、約1.92億XRP(約2.26億ドル)が残っている
NEAR約4,500万ドルのうち動いたのは約90万ドルのみ

ひと言でまとめると、凍結できるステーブルコインの大半は凍結され、凍結できない大口のBTCとETHは動かず、いま動いているのは主に小型銘柄です。


4. 資金洗浄のパイプライン:分散、交換、クロスチェーン、ミキシング

(1)分散

  • Ellipticの集計では、資金はすでに2万を超えるウォレット、16のチェーン、少なくとも36のサービスを経由し、少なくとも6.5万件のトランザクションが発生しています。平均で30秒ごとに新しいウォレットが現れ、10秒ごとに1件のトランザクションが起きています。
  • 主戦場はTronです。トランザクションは約3.2万件で、ピークは10月31日08:00からの1時間の約1,300件でした。Tron上では、1ドルが平均約9回、持ち主を替えています。
  • Chainalysisは決まったパターンを観測しています。多くのアドレスが、まずちょうど1 TRXを受け取り、その後で大口の資金を受け取って、さらに転送しています。
  • Chainalysisの集計では、Tronを経由した総額は約5億ドルで、1,000を超えるアドレスに分散されています。この数字には同じ資金がウォレット間で何度も移された分が含まれるため、Ellipticが集計した約2.2億ドルより大きくなっています。

(2)「凍結できない」資産への交換

盗まれた資産のうち約34.6億ドル(54%)はステーブルコインで、攻撃者が最も早く換えたかった部分です。

  • Tether:USDTがイーサリアムに届いてから37分後に凍結されました。しかしその37分の間に、約4.34億USDTがUniswapなどの分散型取引所でETHに換えられていました。
  • Circle:USDCが1枚も交換される前に、攻撃者が受け取った8.23億ドル分のUSDCをすべて凍結しました。Circleが11月5日に公表した累計の凍結額は約11億ドルです。
  • 全体では、約7.86億ドルが凍結の発効前に交換されていました。
  • 一部のTRXは、「凍結できない」ことを売りにするステーブルコインUSDDにも換えられました。

(3)クロスチェーンでビットコインへ

  • 盗難後の最初の2.5時間のうちに、攻撃者は6つのクロスチェーンブリッジを使いました。
  • THORChainは、ETHとXRPをBTCに換える主要なルートです。10月31日11:34、THORChainはイーサリアムのブロック再編成で返金の不具合(10 ETHの過払い)が露見したため、大半のチェーンでのスワップを停止しました。11月3日深夜に再開すると、資金洗浄も再開しました。11月4日時点で、約1.22万ETH(約2,900万ドル)がTHORChain経由でBTCに換えられています。
  • オンチェーン研究者のSomaXBTによると、11月1日時点で約4,830万ドルがTHORChainに入り、約4,270万ドルが出ており、約12%が手数料とスリッページで失われています。攻撃者にとっては許容できる「洗浄コスト」です。
  • 攻撃者が他の盗難資金から換えたBTCは増え続けています。11月3日午後に約215 BTC、11月4日午前に約470 BTC、11月6日に約1,650 BTC(約1.24億ドル)です。Ellipticは、直近一晩の増加分の大半はTHORChain経由で交換されたXRPによるものと見ています。

FBIは10月31日の通報で、THORChainのノード運営者に関連取引の遮断を名指しで求めました。しかしTHORChainは今年9月、Bitgetからのアドレスのブロック要請を拒否しています。緊急時の制御は全体を一時停止することしかできず、個別のスワップは凍結できない、という理由でした。

(4)「金庫ホッピング」とミキシング

  • 金庫ホッピング:10月31日、1.28億TRXがJustLendの金庫(ボールト)を経由しました。1つのアドレスから預け入れ、16の新しいアドレスから引き出すことで、オンチェーン上の直接のつながりを断ち切る手口です。SolanaとTron上でも同様の手口が見られました。
  • CoinJoin:11月1日以降、約33 BTC(約250万ドル)がWabiSabiのミキシングに入りました。1ラウンドあたりの入力は101〜491です。
  • Privacy Cash:11月3日に約41 ETHと9,600 SOL(合計約100万ドル)、11月4日にさらに約2,300 SOLを受け取りました。このサービスは11月4日に入金を停止し、翌日の午後に再開しました。

(5)Bitgetの盗難資金との合流

約1,600万ドルが、9月のBitgetの盗難資金も保有しているアドレスに流れ込みました。Bitgetの事件は約3.88億ドルで、同じく北朝鮮のハッカーによるものとされています。Chainalysisは、これを本件を北朝鮮によるものとする最も有力な証拠の1つと見ています。


5. 「中国の資金洗浄ネットワーク」:どこまでが事実で、どこからが推測か

11月5日、Chainalysisが盗まれた資金の一部が中国の資金洗浄ネットワークに流れたと述べ、このニュースは広く転載されました。しかし詳しく見ると、各社の言い方は実はかなり慎重です。

  • Chainalysis(BigGo Financeの報道による):中国の資金洗浄組織に流れた「数十万ドル」を追跡しました。盗難総額のごく一部にすぎません。約24.2億ドル相当のBTCとETHはほとんど動いておらず、約10億ドルが同社が資金洗浄ルートと認定するネットワークを流れています。
  • Elliptic:すでに現金化された額は「ごくわずか」です。動いている資金は中国の資金洗浄ネットワークに処理が任されている可能性がありますが、オンチェーンデータではそれを確認できません。
  • DTEXのMichael Barnhart:TraderTraitorはこれまで、中国の資金洗浄ネットワークに手数料や取り分を払い、盗んだ資産の移転を代行させてきました。

見極めが必要な点:「約10億ドルが資金洗浄ルートを流れている」ことは、「中国の資金洗浄ネットワークを通じて約10億ドルが現金化された」ことと同じではありません。後者は、Chainalysis自身の説明(数十万ドル)とも、Ellipticの説明(ごくわずか)とも合いません。

現金化こそがボトルネック

オンチェーンの資産を使えるお金に変えるには、最終的に相手方が必要です。中央集権型の取引所か、店頭取引(OTC)業者です。Bybitの事件を参考にすると、次のとおりです。

  • 2025年2月、Bybitから盗まれた49.9万ETHは10日以内にすべて洗浄され、主にBTCに換えられました。
  • しかし現金化には数か月かかりました。資金はTron上のUSDTに換えられ、中国系とみられる店頭取引サービスを通じて現金化されました。

Ellipticは今回も同じペースになると予想しています。ETHは少額に分けてBTCに換えられ、数か月かけてOTC業者や取引所を通じて現金化される、という見立てです。つまり、差し止めにはまだ時間の猶予があり、現金化の出口こそが最も差し止めに適した場所です。

北朝鮮の反応

11月2日、北朝鮮の金正恩総書記の妹である金与正氏が声明を出し、関与を否定しました。米国の主張を「陳腐な挑発」「ばかげた言い分」と呼んでいます。声明は翌日、朝鮮中央通信が報じました。Ellipticは、自社のオンチェーン分析は本件をTraderTraitorによるものとする見方を裏付けていると応じています。


6. なぜ今回は44%を凍結でき、Bybitでは3%だったのか

  1. 資産の構成:盗まれた資産の約54%がステーブルコインでした。USDTやUSDCのようなトークンには、発行体が操作できる凍結機能が組み込まれています。BTCやETHには発行体がなく、このように凍結することはできません。
  2. スピード:Tetherは37分以内に動き、Circleはどの交換も起きる前にUSDCをすべて凍結しました。
  3. 連携:Ripple、World Liberty Financial、Arbitrumのセキュリティ評議会なども凍結に加わりました。

ただし、凍結の権限そのものにも議論があります。ソウル経済新聞の11月7日の報道によると、凍結をめぐる訴訟は両方向で起きています。ある企業はTetherを提訴し、自社のUSDTが1年以上凍結されたまま解除されないと主張しています。別に2人のタイ人もTetherを提訴し、約4,242万ドル分のUSDTが裁判所の差押命令なしに凍結されたと主張しています。一方、Driftプロトコルの盗難事件の投資家は、適時に凍結しなかったとしてCircleを提訴しています。米国のGENIUS法は、合法的な命令に基づいて資産を凍結・焼却することを発行体に義務づけており、その命令は管轄権を持つ裁判所か、権限を与えられた連邦機関によるものでなければなりません。

改めて強調しておきます。凍結は回収ではありません。 凍結されたステーブルコインがBinanceの手に戻るには、発行体がそのトークンを焼却して改めて発行する必要があり、法的な手続きを経なければなりません。現時点で、資金が返還されたという公開情報はまだありません。


7. Binance側の動き:出金の再開と補填

  • 出金の再開:11月1日、Binanceは段階的に出金を再開しました。シンガポール時間の午後2時以降にまずビットコインを再開し、午後8時半までに、イーサリアム、BNB Smart Chain、XRP、Baseを含む15のネットワークを再開しました。第1段階はETH、USDT、USDCを含む15のトークンが対象です。
  • 資金の流出:DefiLlamaのデータでは、11月1日夜の純流出額は約35億ドルでした。共同CEOの何一(Yi He)氏は、その一部はBinance内部のウォレット間の移動だと説明しています。また、その後の2日間でBinanceの追跡可能な資産が約34億ドル回復したとの報道もありますが、この数字ではユーザーの新規入金と、Binance自身による補填のための買い付けを区別できません。
  • 補填の進捗:影響を受けた資産の補填率は、11月1日に約95%、11月3日に98%となりました。資金は会社の資金、緊急基金、保険基金から出ています。何一氏は、今年の収益でこの損失を十分にまかなえるとしています。また「もっと早くからセキュリティにより多く投資し、より厳しい基準を設けるべきだった」とも述べています。
  • 準備金証明:Binanceは準備金証明のウォレットアドレス一覧を更新しました。今後の出金はすべて、これらの新しいアドレスから行われます。

8. セキュリティチームへの5つの教訓

(1)「面接課題」は高リスクの入口

TraderTraitorの偽採用の手口は何年も前から使われてきましたが、今回も通用しました。

  • 外部から提供されたコードを業務用デバイスで実行してはならない、と明確に定める。
  • 開発者を対象に、ソーシャルエンジニアリングの訓練を定期的に行う。

(2)開発ツールもサプライチェーンの一部

今回の2つの入口は、どちらも開発ツールでした。改ざんされたHomebrewのインストールパッケージと、置き換えられた開発ツールのコンポーネントです。

  • 開発ツールは、社内ミラーか、署名を検証済みの入手元からのみインストールする。
  • 開発者PC上のパッケージマネージャーのディレクトリで、ファイルの変化を監視する。
  • AIコーディングツールは注目度が高く、攻撃者がおとりを仕掛ける格好の対象です。入手経路も同様に管理が必要です。

(3)社内AIツールは新たな特権経路

従業員に代わって他のPCを操作できる社内AIツールは、攻撃者の手に渡れば、そのまま踏み台になります。

  • 社内AIツールには独立したIDと最小権限を与え、利用者の権限をすべて引き継がせない。
  • デバイスやシステムをまたぐ操作は個別に承認し、監査ログを完全に記録する。
  • これは前回の記事で示した原則と同じです。AIエージェントはブレーキを握ってよいが、鍵は握らせない。

(4)緊急時の取り消し手順は事前に訓練しておく

Binanceのレポートは、出金の停止が資産移転の停止を意味しないこと、そしてMPCウォレットにはすぐに無効化できる秘密鍵がないことを認めています。

  • 「EIP-7702の委任の取り消し」「署名鍵シェアのローテーション」「署名サービスの凍結」などの緊急手順を事前に用意し、定期的に訓練する。
  • 「異常の発見から委任の解除まで」の時間を評価指標にする。今回は約4時間かかりました。

(5)現金化の出口こそ最適な差し止めポイント

盗まれた資産は、最終的に取引所かOTC業者を通らなければ現金化できず、その過程は数か月に及ぶこともあります。

  • 中小の取引所、OTC業者、決済サービスも、資金洗浄の出口になり得る。
  • FBIが公表したアドレスやオンチェーン分析企業のリスクラベルをリアルタイムで取り込み、入金と取引をスクリーニングする。
  • 「まず1 TRXを受け取ってから大口を受け取る」「新しいアドレスが入金を受けてから数分以内に送金する」といったパターンにアラートを設定する。

今後の注目点

  • 18,270 BTCと大口のETHがいつ動き出すか、そしてどのようなペースで動くか
  • THORChainのノード運営者がFBIの遮断要請に応じるか
  • OTCでの現金化:取引所や店頭業者による凍結、捜査機関による押収のニュースが出るか
  • 凍結資金の返還:TetherとCircleが、焼却と再発行によってBinanceに資金を返すのか、返すならいつか
  • Binanceの続報:社内AIツールが具体的にどう悪用されたのか、独立した専門家による検証の結論

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参考資料

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